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自分の死後の遺体をどうするか?その埋葬方法は国や地域によってある程度決められているものの、生前の本人の強い希望と意思があり、それが可能な場合は選択の余地がある。
近年では様々な埋葬サービスが提供されており、遺骨から合成ダイヤモンドを作るダイヤモンド葬なるものまで存在するが、かつて一風変わった埋葬方法をリクエストした人々がいた。
ここではそんな10人それぞれの物語を見ていこう。
10. 宇宙に打ち上げてほしい(宇宙葬)
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References:collectspace/ image credit:NASA
無限の宇宙が怖いという人もいるかもしれないが、飛行時間7000時間のベテラン宇宙飛行士ゴードン・クーパーにとってはそうではなかった。
アメリカ初の宇宙飛行士「オリジナル・セブン」の1人である彼が選んだ安住の地は宇宙だった。
だが、それは簡単ではなかった。彼が死んだのは2004年のこと。そして、2007年ようやく計画が実行に移された。
まずは遺灰の一部をカプセルに納め、弾道軌道まで打ち上げ。落下してきたカプセル(これは予定通り)を回収するはずだったが、悪天候のために数週間行方不明になってしまった。
さらに2008年にも遺灰がロケットに乗せられた。が、これは打ち上げに失敗し、消失。
残された遺灰を宇宙空間に打ち上げることに成功したのは、2012年5月になってようやくのことだ。亡骸は1ヶ月ほど宇宙を漂い、大気圏に再突入し燃え尽きた。
ちなみに彼以外にも『スタートレック』で「スコッティ」を演じたジェームズ・ドゥーアンや、同シリーズの生みの親ジーン・ロッデンベリーも宇宙葬で葬られている。
現在は既に宇宙葬は一般の人でも手の届く埋葬方法となっている。
9. 戦場で散りたい(戦場葬)
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References:englishmonarchs/ image credit:Wallace_Monument wikimedia
スコットランド王ロバート1世(1306~1329年)は、イングランドとの独立戦争で国を勝利へ導いた功績で知られている。
そんな英雄だが、死の床で十字軍に参戦できなかったことを悔い、副官であり、友人でもあったジェームズ・ダグラス卿に、自分の心臓を十字軍によって聖地まで運んでくれるよう頼んだ。
ダグラス卿はこれを引き受け、心臓を銀の箱に入れて十字軍へ赴いた。
あいにくながら、彼の心臓は聖地にたどり着かなかった。味方に見捨てられたダグラス卿はテバの戦いの最中、その混乱の中に心臓を放り投げ、自身も命を落とした。そのときの言葉は、「疾くゆけ、汝が常にそうだったように」だった。
なお、ロバート1世の心臓はスコットランドに返還され、今はメルローズ修道院に埋葬されている。
8. 火葬にして国立公園に遺灰を撒いてほしい(公園葬)
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References:newspapers/ image credit:Gram_Parsons wikimedia
友人の最後の願いはどこまで叶えてやるべきか? そんな悩みに直面した人たちもいる。
米国のミュージシャン、グラム・パーソンズはジョシュア・ツリー国立公園への旅の途中、モルヒネの過剰投与で死亡した。
だが、その少し前、友人のポール・カウフマンとマイケル・マーティンは、遺体は荼毘に付して、遺灰をジョシュア・ツリーに撒いてほしいという願いを彼から聞かされていたのだ。
厄介なことに、遺体は既にニューオリンズで埋葬する手はずが整えられていた。悩んだカウフマンとマーティンであったが、友人の最後の願いを叶えるべく、葬儀屋になりすまし、空港で遺体を誘拐。棺をジョシュア・ツリーまで運ぶと、ガソリンを撒いて火をつけた。
そのせいで2人は逮捕され罰金が科せられたうえに、本来ニューオリンズで行われるはずだった葬儀代まで請求されたのである。
7. 遺灰をマンガのインクに使ってほしい(漫画葬)
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References:archive/ image credit:Mark_Gruenwald wikimedia
漫画のキャラならば、死んで復活することだってあるだろう。悲しいことに、その作者まで不死身とはいかない。
1996年、『キャプテン・アメリカ』などの作品で知られるマーク・グルエンウォルドは、先天的な心臓の奇形が原因の心臓発作によってこの世を去った。
死に先立ち、彼は自分の遺灰をマンガの一部に使ってほしいと遺言を残していた。この願いは叶えられ、遺灰はインクに混ぜられて某作品の初版に使用された――それが『スクアドロン・スプリーム』だ。
6. 遺体を一切切り刻まずに放置してほしい(放置葬)
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References:smithsonianmag/ image credit: H. Biberstein wikimedia
多くの人は死後も自分のことを覚えておいてほしいと願うだろうが、中には完全に忘れ去られたいと願う人もいる。
ドナスィヤン・アルフォンス・ド・サドは後者であった――そう、「サディズム」の語源となったあのマルキ・ド・サドである。
彼は遺言で死後、いかなる理由があろうとも遺体を切り開くことを禁じ、死んだ部屋で一切手をつけず48時間放置せよと言い残した。それから棺に納め、彼が所有する敷地に埋葬せよ、と。
残念ながら、彼の遺志は尊重されなかった。1814年、シャラントン精神病院で亡くなると、病院内で埋葬。また頭蓋骨は切除され、骨相学用の検体として提供された。
頭蓋骨はやがて紛失されたが、彼の名は今もなお忘れ去られずにいる。
5. プリングルズの缶に詰めてほしい( プリングルズ缶葬)
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References:content.time/ image credit:Pringles
これまでの当事者からわかるように、ある程度の成功を収めた者なら、自分の遺体を自ら望むように処理することがきる。
フレッド・バウアという化学者最大の業績は、スナック菓子のプリングルズの缶を作り出したことだった。
2008年に亡くなると、彼の子供によって自身が考案したプリングルズの缶に遺灰の一部が納められ、骨壷のわきに置かれた。
4. 解剖してほしい(解剖葬)
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References:alt.cimedia/ image credit:University of Texas
混乱のあまり、死の中にしか救いを見出せなくなる者もいる。
チャールズ・ホイットマンは正気を失いつつある自分に気づいており、「近頃は、自分のことがまるでわからない」と自殺をほのめかす手紙をしたためた。
1966年8月1日、ついに悲劇が起きる。彼は妻と母親を殺すと、テキサス大学の本館時計塔に登り、発砲。14人を殺し、31人を負傷させた末、警察に射殺された。テキサスタワー乱射事件である。
手紙には、自分を解剖して、正気を失った原因があるなら特定してほしい旨が記載されていた。
そして検視によって、脳に腫瘍が発見される。事件と腫瘍との関係を断定することはできないが、そのせいで彼が自分をコントロールできなくなっていた可能性は十分考えられる。
3. 演劇の小道具にしてほしい(小道具葬)
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References:telegraph/ image credit:ALASTAIR MUIR
自分の遺体を他人のために活かしたいと願う人もいる。臓器を移植用に提供することもできる。あるいは検体として医学の研究に活かしてもらう方法もある。
が、ポーランドのピアニストのアンジェイ・チャイコフスキは、自分の頭蓋骨を芸術のために使ってもらうことにした。
その遺言には、自身の頭蓋骨を『ハムレット』に使ってもらうべく、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに寄付すると記されていた。
彼が死んだのは1982年のこと。本物の舞台で本物の頭蓋骨が使われるまでには数十年がかかった。だが、2008年ついに彼の願いは叶い、ハムレット役で名高いデヴィッド・テナントによって使われた。
2. 愛車と一緒に埋葬してほしい(愛車葬)
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References:mysanantonio/ image credit:San Antonio Express-News
何よりも車に魅了される人がいる。
石油で財を成したテキサスの富豪の未亡人だったサンドラ・ウェストもまたその1人だ。彼女は遺言で、白いレースのナイトガウンを着せたまま、愛車のフェラーリに乗せて葬ってほしいと頼んだ。
1977年、ドラッグの過剰摂取で死亡した彼女の遺体は、車と一緒に墓の中に降ろされ、墓泥棒に荒らされないよう、その上からコンクリートが注がれた。
1. 大砲でぶっ放してほしい(大砲葬)
References:theguardian youtube:Hunter's Funeral
アメリカ人のジャーナリスト兼作家のハンター・S・トンプソンの半分も楽しい人生を送れた人は幸運だろう。
生前彼は、ヘルズ・エンジェルズとバイクを疾走させ、「ゴンゾー・ジャーナリズム」という独自の取材スタイルを作り出した。
彼の破天荒な生き方すべてを紹介するスペースはないが、その最後は自殺だった。享年67歳。理由は思ったよりも長生きしすぎたことと遺書に述べられている。
その埋葬の仕方も破天荒だ。彼は自分でデザインした大砲で、遺灰を花火と共にぶっ放させたのである。
☆俺は宇宙に分骨じゃ!