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新型コロナウイルスがパンデミックとなり、「社会的距離(ソーシャル・ディスタンシング)」という言葉が連日のように叫ばれている。
感染が広がらないよう、人と人の間の物理的な距離を保つことで、密閉、密集、密接を避けることである。
感染病が広がるのは何も人間だけではない。動物界では様々な感染症が確認されているが、群れで暮らす種では、仲間が病気になると「社会的距離」をとる戦略が行われているという。それはチスイコウモリ(吸血コウモリ)も同様なのだそうだ。
ただし人間と同じように、家族の絆は強く、病気になっても母親は子供にエサとなる血を分け与えていたという。
高い社会性をもつチスイコウモリ
『Journal of Animal Ecology』に掲載された研究では、チスイコウモリが病気になったときの社会行動の変化について掘り下げている。
チスイコウモリ——俗に言う吸血コウモリは、意外にも高度に社会的な生き物で、数百から数千ものコロニーを作って生きている。
社会性は彼らの生存において非常に重要な戦略であり、仲間同士で身繕いをしたり、食べ物を分け与えたりと、お互いに面倒を見ながら暮らしている。
お互いの口を舐めては吐き戻した血液を分かち合う食べ物のシェアは、特に血縁関係の近い家族内で行われることが多く、またメス同士でより一般的だ。
チスイコウモリの中には怠け者もいるようで、そうした個体は仲間が狩りに行っている間も巣に残り、帰ってきた仲間がシェアしてくれる血液だけを食べて生きる。
だが、これもやりすぎると”穀潰し”のような扱いをされ、やがては血液をもらえなくなることもあるようだ。
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Gabriel Mendes
病気になったコウモリに対する仲間の社会行動を観察
こうした社会行動に病気が与える影響を紹介する前に、まず「病気」と「社会行動」をはっきりと定義しておこう。
ここで言う「病気」とは感染への免疫反応のこと。この間、コウモリは感染症との戦いにエネルギーを多く割き、ほかの行動をあまりしなくなる。
また「社会行動」とは、仲間同士の身繕いや食べ物のシェアなどのことだ。
テキサス大学オースティン校(アメリカ)とスミソニアン熱帯研究所(パナマ)の研究グループは、飼育しているチスイコウモリに細菌を注射して病気にし、それが社会行動に与える影響を観察した。
エサ(牛の血液)はディスペンサーから与えられ、コウモリ同士は自由に社会行動できるようにされていた。
またエサのシェアを促すために、注射に先立ち、定期的に一部の個体を26~28時間ほど隔離して、エサを抜いた。こうすることで、狩りに行かなかったか、行ったがエサを獲得できなかったときの状況を疑似的に作り出す。
この条件で、彼らの社会行動が観察された。
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Kelsey Gaskins/iStock
病気のコウモリは仲間と社会的距離を取っている
すると、病気のせいで社会行動がまったくなくなるようなことはなかったが、多少の変化はあったようだ。
病気のコウモリはあまり自分の身繕いをしなくなり、また健康な仲間からしてもらう頻度も減ったという。
研究グループはその理由を、病気で元気がなくなったコウモリは仲間の身繕いをしてあげることが少なくなるので、その返礼として身繕いをしてもらう頻度も減るのではないかと推測している。
一方、生存には必須の習慣であると考えられるエサのシェアについては、病気の個体も健康な個体もこれを止めてしまうことはなかったとのことだ。
病気のコウモリは、細菌の注射を受ける前に断食をしていたので、とにかくエサを必要としていた。病気の個体が仲間の口を舐めて、食べ物を分けて欲しいとせがむと、その仲間はきちんと血液を分けてあげたそうだ。
つまり唯一観察された変化は、病気になったコウモリが家族以外の仲間の身繕いをあまりしなくなったということだ。これが人間界でいうところの社会的距離に似た行動ということになるのだろう。
チスイコウモリの家族の絆は強い
まが、病気が流行しているときでも、チスイコウモリの家族構造は維持された。病気かどうかに関わりなく、母親は子供にエサを与え続けていたという。
このことは、病気になったコウモリは元気がなくなり、外での社会行動を控える一方、血縁にある家族同士の交流までが完全にストップしてしまうわけではないことを示している。
「これは人間の社会的距離戦略に似ているかもしれません。独りきりで完全に引きこもってしまうのではなく、そうしたときでも、家族と一緒に暮らしていて、多少なりとも触れ合いがあるでしょうから」と研究グループのセバスチャン・ストックマイアー氏は説明している。
References:massivesci./
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